++ Frame ++
メールアドレスを聞く方法

僕がよく行く近所のマンガ喫茶に、ステキな女の子が働いている。
どこがステキかというと、まずその屈託の無い表情だ。
彼女はお客さんの目をよく見る。
それは、意識して身に付けたものというより、もう彼女の中に根付いた、
彼女の個性としての基本動作なのだろう。
それぐらいその仕草は自然で、力むところがない。
そして、いつもえくぼが出る手前の笑顔を見せるところも、かわいらしい。
彼女の屈託の無さは、この彼女の口元から表現されていると、僕は思った。
あと、彼女が清潔感のある美人だったということも、単純にステキだった。
人を外見で差別してはいけませんと言われたって、
見てかわいいと思ってしまうものは、どうしようもない。

両足の間に罪のシンボルをぶらさげている人は、誰だって、
彼女と仲良しになりたいと思ってしまうだろう。
僕ももちろん、そう思った。だから僕は彼女に話し掛けることにした。
まあ、よくある話だ。

さてここで、ひとつ皆さんに聞きたい。
こういうとき、みなさんはどうやって話し掛けるのだろうか。
僕は、他の人の方法をよく知らない。
ちょっとみなさんに、こういう場合自分ならどうしているか、考えてみてほしい。
そして、こういう場合に話し掛けることのできない人は、
どうしてできなくなっているのか、考えてみて欲しい。

僕はこういうシチュエーションで話し掛けることを得意としているので、
よく友達に相談される。下手すれば、依頼すらされる。
「おい、どうやったら彼女のメルアド聞きだせるか、教えてくれよ」あるいは
「お前、そういうの得意だろ、彼女のメルアドを聞き出してきてくれよ」と。

僕はそのとき疑問でならないのだけど、なぜ、一発目の目的が、
「メルアドを聞き出す」になるのだろうか。
僕にはそれが理解できない。それはいくらなんでも、不自然じゃないか。

当たり前すぎて、くどくど説明するのも少し恥ずかしいけど、
僕ならいきなりメルアドを聞きだそうとしたりしない。
僕が話し掛けるとしたら、僕が思っていることを、そのまま言うだけだ。

「余計なこと言っていいですか。仕事、がんばってますね。
で、すごく人懐っこい表情持ってますね。かなりイイですよソレ」

僕が彼女に伝えるべきことが、他にあるだろうか。
僕にはいまいち見当たらない。
僕は確かに彼女をみてそう思ったわけで、
僕がそう思ったことをそのまま伝える、それでいいんじゃないだろうか。

僕の心の中で起こったことを、ごく当たり前に整理してみると、次の四段階になる。


彼女はステキだ
↓
それは、口元中心に、屈託の無い表情をしてるからだ
↓
彼女とじっくりお話ができたらいいな
↓
連絡先を教えてもらえればいいな


これは誰が見たって自明のことだと思う。
にも関わらず、多くの人が、いきなり4つめの段階に跳躍して、
メルアドを聞き出そうとするのはなぜだろう。

あえて言うけど、まずは1つめの段階、
「ステキですね」ってことについて、伝えようとするべきだ。
でないと、相手からしてみれば、何がなんやらわからない。
宗教の勧誘かと思われてしまうかもしれない。

そりゃあ、特殊な状況なら別だ。
お互いに、単に外見から好意を既に持ち合っていたなら、
いきなりメルアドを聞き出すのもいいかもしれない。
僕だって、矢田亜希子にメルアドをいきなり聞かれたら、
喜んで教えてしまうだろう。

でも僕の場合なんかは、まず外見だけで相手に好意を
もってもらえることなんか無いから、
いきなりメルアドなんか聞こうものなら、確実に怪しまれる。
大半の人は、そうじゃないのかな。
だから、ちゃんと当然の段階を踏んでいかなくちゃいけないのだ。

で、ここから先も僕は知っているのだけど、多くの人が、まずその1つめ、
「ステキですね」ってことを、伝える勇気を持たない。
単純に、恥ずかしさに負けてしまう。
僕としては、勇気なんてごたいそうなものではないと思うのだけど、
とにかくそこを踏み切れない人は多いようなのだ。

そこから、勇気が出ないんですけどどうしましょう、
って聞かれることも多いけど、そうなってくると、
僕としてはどうしようもありません、と答えるしかない。
なぜって、本人がわざわざ「勇気無いんです」と断言しているからには、
それはやっぱり無いのだろう。
勇気の無い人は、勇気の無い生き方をしてもらうしかない。
それはそれで筋が通っているから、いいじゃないか。

とはいえ、物事にはノウハウってやつがあるから、
僕はそれを提供することは惜しまない。
どうすれば、「ステキですね」ってことを相手に伝える踏ん切りがつくか。

まず、自分が言われる側に立って考えてみることだ。
例えばあなたが、ご老人に道を教えていたとしよう。
その後、それを見ていた人から、
「お人柄が出ますね。見ているだけでも気持ちいいですよ」
と伝えられたとしよう。あなたはそれを、不愉快に思うだろうか。

そう考えてみれば、少しはラクになるんじゃないか。
ステキですね、と伝えられて、気分を害することなんてなかなか無い。
むしろ、世の中を明るくしていく一つの方法ですらあるんじゃないか。
そういう風に信じられたら、あなたも勇気がわいてくるかもしれない。
また、挙動不審にもならなくてすむだろう。

僕はいつもそう思って、ステキな人にはステキですねと、伝えるようにしている。
そのうちいくつかは先方にとってウザかったかもしれないけど、
正直、そこは我慢してもらおうと思う。
申し訳ないけど、人生にはストレスがつきものだから。

ところで、この1つめの段階に立ちふさがる障害は、
その勇気の有無だけではない。
次によく聞かれるのが、コレだ。
「なんて言葉をかけたらいいかわかりません」ってやつだ。

確かに、勇気があっても、言葉が出てこなかったら意味が無い。
もちろん、言葉のセンスも重要になってくるから、
それがあまりに欠如していると、
せっかくの勇気も空振りフルスウィングになりかねない。

で、またそうやって、「言葉が出てきませんがどうしましょう」
と僕に相談されても、僕にはどうしようもない。
どれだけあいてを観察しても、「なんかいい感じ」「イケてる」「かわいい」
としか言葉が出てこなかったら、やはりどうしようもないのだ。

そこで僕は、あきらめろと言ってしまう前に、ジジ臭く説教したい。
あなたは本当に、今まで生きてきて、人を観る力が身につかなかったのか。
それを表現する言葉を、身につけなかったのか。
であれば、それはあなたの怠慢だ。
いろんな人の話を真摯にきき、たまには三文小説以外の本を読んでいれば、
ある程度は身についているものだ。
本当にそれをずっとさぼってきて、そういう力が身についていないなら、
今からでもそういう知恵を勉強しなくちゃいけない。
でないと、あなたは生まれてきた我が子にすら、
「アホ」「バカ」「ボケ」という言葉でしか叱れず、
「いい子」「かしこい子」という言葉でしか褒められなくなるのだから。

というわけで、そういうときは、本当にその言葉をつむぎだす能力があなたに無いのか、
もう一度考えてみてほしい。きっと、ホントはあるんだと思うんだけど。

さて、この1つめの段階については、勇気と知恵があればできるはずだ。
それができてしまえば、あなたの人間関係開拓に、新しいルートが生まれると思う。
それは人生において、かなり価値があると、僕は思っている。

その先のステップについては、あまり説明する必要はないだろうな。
だって、同じことの繰り返しだから。
「せっかくだから、名前を聞かせてもらえたら嬉しい」
「できたら、一回じっくりと話を聞かせて欲しいと思う」
「よければ、連絡先が知りたい」
タイミングをみて、そうやって進行させていくだけのことだから。
そこにあるのは、結局、伝えるべきことを伝える、
という一つの道筋でしかないし、それも、同じく勇気と知恵に支えられるものだ。

というわけで、どうだろう。なにかヒントになっただろうか。
あなたも、いつも見かけて気になっているあの人に、
一つずつ、伝えるべきことを伝えてみてはいかがだろうか。
少しドキドキすると思うけど、その分、向こうも少しはドキドキしてくれる。
それは結構楽しいことだ。それが別に恋物語に進展しなくても、
間違いなくあなたの気持ちを豊かにしてくれるだろう。


このコラムの感想を送る
お名前 ※HNでOK
Eーmail ※半角英数

注:内容確認画面は表示されません 

++ main ++